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最高裁判所第一小法廷 平成6年(オ)1347号 判決 1994年10月13日

香川県大川郡大内町三本松五七八番地二

上告人

大森章

右訴訟代理人弁護士

岡田忠典

被上告人

右代表者法務大臣

前田勲男

右指定代理人

村川広視

右当事者間の高松高等裁判所平成四年(ネ)第三五七号損害賠償請求事件について、同裁判所が平成六年四月二六日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人岡田忠典の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小野幹雄 裁判官 大堀誠一 裁判官 三好達 裁判官 大白勝 裁判官 高橋久子)

○ 上告代理人岡田忠典の上告理由

本件で問題としている上告人の酒類販売業内免許申請に対する高松国税局酒税課の拒否通知(通知名義人は長尾税務署長となっているが国税局酒税課が手続をした事実は双方に争いがない)は適正手続に違反したもので、最高裁判所昭和四六年一〇月二八日判決(民集二五巻七号、タクシー免許申請にかかわる件)に違反するものであって、原々審および原審判決は、いづれも破棄されるべきものである。すなわち、

一、昭和六三年七月一日付長尾税務署受付の酒類販売内免許申請(以下前申請)は、平成元年四月六日に、右税務署長から拒否通知書が上告人に対し発送された。同年五月十二日付同申請(以下後申請)に対して、今度は、同年七月一〇日付で、同署長より内免許通知書が上告人に対し発送された。前申請と後申請は、内容において全く同一である。

二、上告人は右の全く相違する税務署長の決定について、

(一) 前申請に対し高松国税局長に対し上告人は異議申立てをしておらず、後申請をしたのは、国税局酒税課職員の指導に従ったものである、

(二) 前申請と後申請の内容が全く同一であるのも、右指導に従ったものである、

(三) 右(一)(二)から前申請に対する拒否通知は後申請に対する許可通知により取消されたものであるが、適法な手続(異議申立て)に対応した判断ではなく、一種の脱法的取引であり、これは税務署の指導によったものである、

(四) そうすると、前申請に対する拒否通知は不当ないし違法なもので、これにより上告人が被った損害を国は賠償する責務がある、

と、主張した。

三、これに対し原々審および原審は、前申請に対する拒否通知以後後申請に対する許可通知までの間、上告人における酒類販売実績の増加ないし増加の可能性の事情があった旨認定し、右の税務当局の指導の違法性を問題とすることなく、右主張を退けられた。

四、しかしながら、

(一) 前申請書と後申請書の内容は全く同一である。すなわち、後申請書に添付された資料の全部が前申請以前に作成されたものである。この事実は、税務当局が申請書添附書類を内免許申請の審査の資料としていない証拠となるもので、適正手続とはほど遠い行為である。

(二) 前申請に対してはもちろん、後申請に対しても、税務当局は上告人から事情聴取を全くしていない。要は、申請はしたもののどのような経過でどのような結論が出されるのかは、税務当局の風向き次第であると言っても過言ではない。原審・原々審が認定された事情の変更があったとしても、それが具体的に上告人にわかったのは原々審の判決によってである。

五、酒類販売場設置の許可問題は、相当以前から酒類販売業界では、芳しからぬ話題の主役であった。いわく、有力政治家の紹介があれば、あるいは、販売組合の有力者を通じて税務当局の指導を受ければ…と。

本件は明白な事実である。すなわち、前申請と後申請を総合し適正手続が行われていないということである。

原々審・原審とも前申請と後申請の間に事情の変更があったから税務当局の措置は違法でなかったとされる。では、結論さえよければ、手続の瑕疵は治癒されるのであるか。一八六七年の第二次選挙法改正案で活躍したオックスフォードの理想主義者T・H・グリーンは、法案通り選挙人の数が増えれば、良い法律が成立しすべてがより人道主義的になり英国の市民生活が改善されると信じているのかと尋ねられ「そうではない。選挙法改正のために活動した仲間は、改正すれば良い法律が成立するようになると信じたわけではない。投票それ自体を善と信じたのだ。」と答えた。つまり、大衆が自分の運命を左右する行動に参加できるのが善であり、民主主義の真髄を言い得たものである。前申請にも後申請にも税務当局から上告人は自己の利害に重大な影響を持つ決定をされるのに対し、事情聴取を受けることなく正反対の処分をうけ、しかも、上告人が提供した情報は同一のものであったという矛盾した事情下においてである。いわゆる適正手続の原則からほど遠い税務当局の所為である。

六、以上の結果、上告人は予定していた酒類販売場以外の場所で営業するのやむなきに至った。これによる損害は、原々審で主張・立証したとおりである。

以上

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